従業員1人あたり57万円
この制度は、『正社員じゃない方を正社員にする』場合、1人あたり通常57万円の補助を行う制度です。
なお、この金額で言う『正社員』は、フルタイムの『正社員』を想定しています。
- 短時間正社員の場合
- 無期雇用に転換する場合
- 無期雇用のものを正社員に転換する場合
上記のような場合には、金額は半額となります。
厚生労働省は、以下の基準を挙げています(『キャリアアップ助成金のご案内』厚生労働省他)。
『すべて』に該当する労働者が『正社員』です。
つまり、1つでも該当しなければ、助成の対象となります。社長が『正社員』と思っている従業員でも、対象になる可能性があるのです。きちんと確認してみる価値はあります。
手続きの流れ
<公式パンフレット>
1.キャリアアップ計画の作成・提出
まずは、『キャリアアップ計画』を作成します。
これは、「いつ頃何を実施するか申請しておく」というもので、作成自体は非常に簡単です。
計画に関する各種書式は、こちらからダウンロードします。
<公式ぺージ>
- 事業主の委任を受けて代理人が提出する場合は委任状(原本)
- その他管轄労働局長が必要と認める書類
申請に際しては、会社の実在を証明するため、念のために、登記簿謄本の写し(会社の場合)や開業届の写し(個人の場合)を持っていくとよいと思います。
2.就業規則、労働協約その他これに準ずるものに転換制度を規定
助成金の制度に合わせて、『転換制度』を用意します。
なお、『転換制度』を準備したことに対して助成されるわけではないので、キャリアアップ計画提出前に転換制度を規定していた場合でも、対象となることが明記されています。
- 試験等の手続き
- 対象者の要件
- 転換実施時期
なお、転換時期を『4月』のように明記してしまうと、4月以外に『正社員化』を実施できないことになってしまいます。
『随時』などの文言で、いつでも実施できるようにしておく必要があります。
就業規則は、作成したら、原則として『労働基準監督署』に届け出なければなりません。
ただし、10人未満の事業所はその義務は免除されています。
代わりに、労働組合等の労働者代表者(事業主と有期契約労働者等を含む事業所の全ての労働者の代表)の署名及び押印による申立書を提出します。
以下は、助成金の公式パンフレットで記載されている記載例です。
第○条(正規雇用への転換)
勤続○年以上の者又は有期実習型訓練修了者で、本人が希望する場合は、正規雇用に転換させることがある。
2 転換時期は、原則毎月1日とする。ただし、所属長が許可した場合はこの限りではない。
3 人事評価結果としてc以上の評価を得ている者又は所属長の推薦がある者に対し、面接及び筆記試験を実施し、合格した場合について転換することとする。
ただ、この規定例には、いくつか問題があります。
『勤続〇年以上』に設定してしまうと、勤続1年未満の従業員は、正社員化できないことになってしまいます。
転換時期を『原則毎月1日』とする意味はあまりなく、『随時』で構いません。
『面接及び筆記試験を実施』と記載した場合、『両方』を実施していなければ、適切に実施されたことにはなりません。ですから、『面接又は筆記試験あるいはその両方を実施』というような記載が望ましいです。
支給申請時、結局『正社員就業規則』を求められることになっているようです。
ただ、就業規則をきちんと外注してしまうと、助成金が飛んでしまうぐらい、高い費用になる場合があります。
そこで、リスクを回避しつつ、最小限で定めることをお勧めします。
弊社は、その書式を無料で進呈しておりますので、ぜひ気軽にご相談ください。
<参考:就業規則について>
10人以上の場合には、『労働基準監督署』に、『就業規則』を届け出ることになります(10人未満でも届け出て問題ありません)。
その方法は、以下の2種類です。
- 郵送
2部作成し、返信用封筒を添えて、管轄労基署に送付する。 - 窓口提出
2部作成し、持参する。
押印のある就業規則でなければ、届出済みであるとみなされません。必ず2部持っていきましょう。
3.転換・直接雇用に際し、就業規則等の転換制度に規定した試験等を実施
『正社員化』を実施するにあたって、『労働者』と『実施内容』の確認をします。
従業員の経歴等によっては、『正社員化』の対象にならない場合があります。
- 雇用期間が6か月以上又は有期実習型訓練を終了した正社員以外の労働者
- 雇用期間が3年以内の労働者
- 正社員として雇用することを約束していない労働者
- 事業主又は取締役の3親等以内の親族以外の労働者
- 支給申請日に離職していない労働者(支給申請日後の離職ならOK)
- 定年前の期間が1年以上ある労働者
試験等を実施した旨の書類を提出させられることはありません。
しかし、労働局は、『その他管轄労働局長が必要と認める書類』を提出させる権限があります。
もし求められたら、『実施した証拠』を提出しなければなりませんから、きちんと実施し、実施した形跡をきちんと残しておくことをお勧めします。
4.正規雇用等への転換・直接雇用の実施
『正社員化』を実施したら、その従業員の待遇は、『正社員』と呼ぶにふさわしいものに調整しなければなりません。
この調整を失敗すると、助成金は支給されませんから、注意が必要です。
以下の3つのことを実施しなければなりません。
- 『正社員』としての待遇にします
- 『雇用契約書』又は『労働条件通知書』を従業員に交付します
- 転換前6か月間の賃金と、転換後6か月間の賃金を比較して、5%増額しているように設定します
『キャリアアップ助成金(正社員化コース)』を申請するためには、賃金台帳上、給与が5%アップしていなければなりません。
以下は公式パンフレットに掲載されているルールです。
計算上、支給内容に含められるものとそうでないものがあります。
確認せずに支給してしまうと、支給対象である『5%要件』を満たさなくなってしまう可能性があります。
事前にきちんと整理・確認しておかなければなりません。
『5%要件』を満たすために、「最後に一時金を支給して」と考える経営者は少なくないかもしれません。
しかし、そう簡単には対処できません。公式パンフレットには、以下のように書かれています。
①実費補填であるもの、②毎月の状況により変動することが見込まれるため実態として労働者の処遇が改善しているか判断できないものについては、名称を問わず賃金総額に含めることができないためご注意ください。
※算定に含められる賞与については、就業規則等に支給時期及び支給対象者が明記されている場合に限られることにご注意ください。
なお、『算定に含めることのできない手当の例』として、以下が挙げられています。
- 就業場所までの交通費を補填する目的の「通勤手当」
- 家賃等を補填する目的の「住宅手当」
- 就業場所が寒冷地であることから暖房費を補填する目的の「燃料手当」
- 業務に必要な工具等を購入する目的の「工具手当」
- 繁閑等により支給されない場合がある「休日手当」及び「時間外労働手当(固定残業代を含む。)」
- 本人の営業成績等に応じて支払われる「歩合給」
- 本人の勤務状況等に応じて支払われる「精皆勤手当」 等
※ 上記以外の諸手当についても、その趣旨等に応じて算定から除かれる場合があります。
5.転換後6か月分の賃金を支給・支給申請
転換後6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に、『支給申請書』等一式を、ハローワークに提出します。
この『2か月』という期限を過ぎると、絶対に支給されませんから、必ず忘れないようにしましょう。
支給申請に関する各種書式は、こちらからダウンロードします。
<公式ぺージ>
- 支給要件確認申立書
- 支払方法・受取人住所届
- キャリアアップ計画書
- 『転換制度』の記載された書類(就業規則未届なら申立書も)
- 就業規則又は労働協約
- 雇用契約書又は労働条件通知書(非正規6か月+正規6か月分)
- 賃金台帳(非正規6か月+正規6か月分)
- 出勤簿又はタイムカード(非正規6か月+正規6か月分)
- その他労働局長が必要と認める書類
- 中小企業であることを確認できる書類
- その他労働局長が必要と認める書類
なお、『就業規則又は労働協約』と記載しましたが、公式パンフレット上で、『対象となる事業所』及び『支給申請書に添付が必要な書類』のところなどに、『転換条項に』と関係なく『就業規則』を求めている部分がないため、もしかすると必須ではないかもしれません。